運命の輪
∞
マサミレッタさま
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尽きることのない憎しみの炎とはこういうものを言うのだろうか。
しかし、彼にとってはそんなことはもうどうでもよかった。
すべてが紅い。皮膚に纏わりつくような熱風。鼻をつく、火薬と、ものがこげる匂い。ときおり、何かが燃え落ちる音が聞こえる。
もし、地獄というものがあるのなら、きっとこの風景に似ているのかも知れない。
激しい戦いと橋から落ちたときに負った怪我の痛みに顔をしかめながら、茶色の髪をした少年――ディリータはそう思った。彼の腕の中には冷たくなった最愛の妹、ティータがいた。もう彼女は自分に笑いかけてはくれない。唯一の肉親だった。もう心の支えになるものはひとつもない。
彼はもう動く気力もなく、ただ、炎の中でティータを抱きかかえながら、立ち尽くしていた。涙は涸れきって、心は空虚だった。
――このままずっと、永遠にティータの側にいれたらどんなに幸せだろうか……。
そう考えているうちにも、ジ−クデン砦を覆う炎の速度は増していく。今彼が立っているこの場所も、完全に炎が回ってしまうのも時間の問題だろう。
しかしすべてを失ってしまった彼にとっては、この場所から離れるという行為は全くの無意味だった。
ディリータは煙が立ちこめる中、再び腕の中のティータを見た。胸に深々と刺さった1本の矢、紅く血で染まった服を見るとやるせない感情が再び沸き起こってくる。彼は彼女の頬にそっと触れた。わずかに彼の腕の角度が変わったため、抱きかかえられた彼女の身体の位置もほんの少し動いた。
コトンッ カラカラカラ………
その時、彼女の淡い紫色のスカートのポケットから何かが転がり落ちた。その物体は炎を受けて、一瞬だけ輝きを見せた。
「………?」
ディリータは彼女を抱きかかえたまま、落ちた場所にしゃがみ込む。手を伸ばすが石と石のくぼみに入り込んでしまって、ぎりぎり届かない。
「………っ」
カチンと金属が爪にあたり、余計奥に入ってしまった。
この姿勢のままでは取れない。
ディリータはティータを数歩後ろの床に優しく、そっと横たわらせる。彼女のウェーブのかかった豊かな茶色の髪が広がる。
そしてうつ伏せになり、石の壁と体の向きを平行になるようにして、石と石の隙間に手を伸ばした。これならなんとか届きそうだ。隙間は暗くてよく見えないが、感覚を研ぎすまして、ゆっくり慎重に近付けていく。
背後から来る熱を帯びた風が、熱い。炎が近くまでさし迫っている証拠だ。
(よし、これか?)
人さし指にひんやりとした金属の感触が伝わる。今度は放さないように、ゆっくりと引き寄せる。腕に負担がかかるためか、つるような痛みを感じる。
隙間からやっと手が出た瞬間。
背後で爆発音がした。近い。
「!」
ズドド……ン、ゴゴゴゴ………ッ!!
振り向くと、背後で大きな石が崩れ落ちた。
ドーン。
強い衝撃。
もう一度、爆発が起こった。
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